日本では銀行が融資したお金を返済できない企業が多くなり、少し景気がよくなっても借金を返すことに忙しく、次の事業を起こせなかった。
また、銀行は有望な企業が出てきても、不良債権を抱えているので、思うように資金を融資できなかった。
こうして生じたのが「失われた一○年」といわれた日本経済の長期停滞だった。
る。
それまで証券化のテクニックを磨いてきたアメリカ金融界が、膨大な日本の不良債権を前にして、これを証券に変えて儲けようと考えたのは、ごく自然な流れだった。
日本では、こんな話が蔓延した。
銀行にお金を二一○億円かりて企業テナントビルを建てたが、不況で部屋を借りる企業がなく、三○億円は返せなくなってしまった。
ところが、「○×ファンド」という名刺をもった人物がやってきて、お前の借金は二○億円でチャラにしてやるという。
一○億円も安くなるのかと話に乗って、何とか無理をして借金を解消したが、実は、この海外の投資家たちに声をかけて、証券を売って集めたものだった。
結局、このファンドは、ほとんど手持ちのお金がなくとも、一○億円の利益をあげるビジネスをしたことになる。
そんな馬鹿な、と思う人がいるかもしれないが、日本の不良債権の多くが、このような証券化の手口で外資ファンドや投資銀行の利益のネタとなった。
もちろん、仲介して利益をあげるのではなく、資産を買い取ってマネージャーを雇い、経営を始める場合もある。
よく知られた例が、バブル崩壊で経営がまったく成り立たなくなったゴルフ場だった。
たとえば、投資会社ローン・スターは九四コースを買収し、投資銀行ゴールドマン・サックスも九四コースを買収して、この二つが日本のゴルフコースのトップ経営主体となった。
もちろん、投資会社や投資銀行の目的は、ゴルフコースを経営することが目的ではなく、いろいろ手を加えて高く売却することである。
証券化された経済の特色が顕著に現われた例は、リップルウッドによる旧日本長期信用銀行の買収だった。
旧日本長期信用銀行を買収したリップルウッドというファンドは、有数のファンドだったと思い込んでいる人が多いが、当時はまったくそうでなかった。
ゴールドマン・サックス出身の野心家のティム・コリンズは、日本の一二菱商事を含む金主から資金を調達し、ファンドを立ち上げたが、この業界では規模の小さいマイナーな存在にすぎなかった。
そこでコリンズは、元米連邦準備制度理事会議長のポール・ボルカーを引っ張りだし、あたかもアメリカの金融界がコリンズを支持しているかのように演出した。
当時、小淵首相がクリントン大統領の晩餐会に参列するさいにも、あらゆる人脈をつかって小淵首相と同じテーブルに着けるように工作した。
このことでコリンズは、アメリカ政府が彼を支持しているかのような印象を、日本の経済マスコミに与えることに成功した(ジリアン・テット『セイビング・ザ・サン』日本経済新聞社)・こうした巧みな攻勢に、最初は国内の銀行との合併を考えていた日本の当局も、次第にリップルウッドがアメリカ政府やウォール・ストリートのお墨付きをもらっている企業再生ファンドであるかのように錯覚し、「外資やむなし」の方向に急転換していった。
結果として、建て直しに国民の税金を七兆九○○○億円も注入した銀行は、一二○○億円でコリンズのものとなる。
コリンズ自身の資金は一○億円に過ぎなかったといわれるが、しバレッジ(挺子)をかけて増幅させ、巨額の買収資金を集めた。
しかも、条件が変われば保証金が入る「暇流担保条項」で九二八○億円を得ている。
結局、コリンズは一○億円の元手で、総資産が約一四兆円の銀行を手にしたわけである。
この話にはさらにおまけがついている。
債務超過になっていたはずの旧日本長期信用銀行は、清算してみると資産のほうが債務を上回っていた。
つまり結果的には、債務超過でない銀行をわざわざ潰して、巨額の税金を投入して安く売却し、リップルウッドが新生銀行の再上場のさいに得た膨大な売却益にも課税できなかった。
この例など、日本政府が「証券化」された資本市場の論理に翻弄された典型例といえるだろう。
それでも「世界金融経済」の謎は多く残っているこうした、呆れるような話が、白昼堂々繰り広げられていたのが、不況に喘ぐ九○年代の日本経済の風景だった。
最近は、多少、日本経済に薄日が射しているため、うまい儲けになる不良債権はなくなったので、アメリカの投資銀行やファンドの関心は、中国の不良債権に移っている。
企業の合併や買収のさい、当事者である企業を差し置いて、大儲けをたくらんでいるのも、投資銀行やファンドであることは、日本でのM&Aを見ただけでわかるだろう。
金額が巨大になるM&Aが行なわれるさいには、投資銀行、証券会社、各種のファンド、法律事務所、会計監査法人、経営コンサルティング会社などが、寄って集って手数料やアドバイス料を手にする。
こうした周辺ビジネスのために行なわれたのではないかと思われるMこのような事態は、世界の経済が「証券化」してしまい、経済推進の主役が金融機関になったことから生じている。
形ある企業もいまや「証券化」されつつあるのだ。
この傾向はョこの証券化は、アメリカの経済に繁栄をもたらした反面、世界経済を不安定なものにしていることは間違いない。
たしかにアメリカ経済は金融を中心に繁栄を続けているが、英経済誌『エコノミスト」が指摘したように「中国はモノを作って儲け、アメリカはカネを作って儲けている」という奇妙な構図を生み出した。
中国(あるいはアジアや日本)が作っているのは、モノという富だが、アメリカが作っているカネという富は、ドルを発行し続けるアメリカへの信頼だけが支えている。
現在の世界金融経済を見ていて私たちが抱く「謎」のほとんどが、この危うい仕組みと関係がある。
これから、この危うい仕組みが生み出した「謎」を一つ一つ検討してゆくことにしたい。
ご存知のように、他の企業の買収を決断した企業あるいは買収ファンドは、まず、買収する相手に対して、友好的に株式の譲渡と経営権の移譲を提案する。
それまで、十分に根回しが行なわれて、買収される側の経営陣が条件に満足すれば、友好的買収は成立する。
多くの場合、企業の経営陣は買収に抵抗するので、このときから買収は敵対的となり、買収側はTOBの条件を発表することになる。
つまり、買収対象となる企業の株式保有者に対して、買付価格を提示して株式の譲渡を呼びかけるわけである。
このときの買付価格は多くの場合、証券市場の株価よりかなり高めに設定するのが普通だ。
株式の保有者が「儲かる」と思って売却する人が多く、買付が五○%を超えれば、買収する側は経営権を奪うことができるわけである。
二○○六年は大手製紙メーカーの王子製紙が、同じく製紙メーカーの北越製紙に対してTOBを仕掛け、マスコミは興奮して「ついに大手企業にもM&Aの嵐が吹き荒れる」と報道した。
北越製紙の大株主の三菱商事がむしろ支援体制を強化し、他の大手製紙メーカーの日本製紙なども北越製紙の株式を買い増したので、王子製紙の買付株式は五%ほどにとどまり、惨めな失敗に終わったことは、まだ記憶に新しい。
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